父と私がこの本の中で伝えたかったメッセージは2つあります。
1つは、科学はとってもわくわくするもので、これからを生きていく上でなくてはならないものだ、ということ。なにもみんなに科学者になれと言っているのではありません。科学者でなくても、生活の中でさまざまな科学知識が必要ですし、自分がくらしていくことと地球の未来が無関係ではないという、大きな視点を持つことが大切になってきます。もう1つは、どうか地球にやさしくしてください、ということ。宇宙をよく見れば、この地球がいかにかけがえのない星であるかがわかります。太陽系を見ても、他の星は人間が住むには過酷な環境の星ばかりです。この美しい地球は、一つしかなく、とてもこわれやすい、これをどうか守ってください、と。そして、いつか宇宙へ行く子どもたちへ、Good Luck!(幸運を祈ります)という言葉を贈ります。
2008年3月2日から9日までの8日間、ルーシー・ホーキングさんが英国より来日されました。
1週間という短い期間に、新聞・雑誌・テレビ・ラジオと25もの取材とサイン会イベントをこなすという超多忙スケジュールでしたが、ほんのわずかな休憩時間を見つけて、東京タワーに上り、大喜び。活動的で元気いっぱいなルーシーさんでした。
翻訳を引き受けるかどうかの検討用として渡されたのは、原書ができあがる前のゲラでした。最初は、自分向きの作品ではないかもしれないと思いました。なにしろ私は物理が苦手で、授業中ひそかにマンガを読んでいるような高校生だったのですから。それに、中身よりホーキング博士の名前で売るような本だったら、おもしろくありません。でも、読んでいくうちに私はぐんぐんひきこまれていきました。宇宙や物理について深い知識がなくても、天体やブラックホールのイメージが、生き生きとうかんできたからです。私はいつしかジョージと一緒に宇宙に飛び出して、ワクワク、ドキドキしていました。というわけで、読み終わったときには「この本を翻訳したい」と強く思うようになっていました。私が感じたワクワク、ドキドキ感が、読者のみなさんにも伝わるよう願っています。
>> プロフィールへホーキングと彼の娘ルーシーとの共著の本が出版された。数年前から2人が物語風の子供向け科学書を準備していることは耳にしていたが、日本語訳もついに完結の運びとなった。
ホーキングは東大での宇宙論の国際会議等に出席するためこれまでも何度か来日しているが、10数年前、子供達全員を連れて来日したことがある。私の子供達とも講演会などで話す機会があったが、長男ローバーツ、長女ルーシー、次男ティム、いずれも穏和なやさしい皆さんである。特にルーシーはまだ学生であったにもかかわらず周りの人々にたいする気配りしながら、父親をサポートしていたのが印象的であった。
昨年末、2007年12月に、ホーキングが新しい研究センターを立ち上げ、その記念の国際会議が開かれた。私も出席し会議での講演や祝賀会で祝辞を述べたが、同じくこの祝賀会で祝辞を述べた人が2006年ノーベル物理学賞を受賞したジョージ・スムートである。彼は明るい気さくな方であるが、この本がたいへんお気に入りで、主人公ジョージと俺は同じ名前だと、会議中、ほかの出席者に見せて回っていた。
彼もこの本をほめているように、楽しくストーリーを楽しみながら宇宙や物理学も学ぶことができる。日本の多くの子供達にも是非読んで欲しい本である。
今回、本書の監修に参加しておどろいたことは、本書があつかう情報科学的内容の深さで す。ここであつかわれているチューリングマシンの位置づけと動作、チューリングマ シンの停止性問題、量子コンピュータの原理、並列計算とスーパーコンピュータ の構成、ロボットの作り方はやさしく書いてありますが、日本では大学の専門課程で初めて触れるような内容ばかりです。
しかしながら、情報とはなにか、コンピュータの原理と使い方を理解するためにはこれらの話題をさけて通ることはできません。小学から中学レベルでの情報教育の方向性について大きな指針を与えていると感じます。
ここのトピックの内容については、もちろん私は様々な異論をもっています。状態を完全に重ね合わせる意味での実用的量子コンピュータは遠い将来までできそうにありませんし、人間に対比できるようなロボットはその根本原理すら見えていないことが現状と考えています。しかし、それらの細かいポイントではなく、全体の話としては、情報とは、情報処理とはなにかということに興味を持たれた小中高校生に読んでいただきたい内容だと感じます。
この本のとてもすばらしいところは、ワクワクする冒険物語なのに、そのついでに(!)宇宙の基本的な知識、しかも最新情報がわかってしまう、ということでしょう。もし、コラムを読んで、難しいと思ったら、読み飛ばしてもかまいません。写真はただ眺めるだけでもかまいません。それでも、ジョージの体験から、地球より木星のほうがずっと大きいとか、ブラックホールとはどんなものかなどというイメージがたくさん心に残ると思います。これらのイメージの小さな種が、いつの日か芽を出し、大きな花を咲かせるのを信じて、この本の世界をひとりでも多くの子どもたちが体験してくれることを願っています。
*翻訳のさくま先生について
ホーキング博士とルーシーさんは、イギリスの方なので、原書は英語で書かれています。一つの言語を別の言語に直す仕事を翻訳といいますが、この本の翻訳は、さくまゆみこ先生にお願いしました。『ローワンと魔法の地図』(あすなろ書房)や『オオカミ族の少年』(評論社)など、ご存知の方も多いでしょう。この本を読んで「面白いな」と思ったところがあれば、ホーキング博士とルーシーさんのおかげであることはもちろんですが、さくま先生が「面白い」日本語にしてくださったおかげでもあります。
*監修者の佐藤勝彦先生、平木敬先生について
この本の物語のジョージやアニーは、実在しませんが、物語の中に出てくる科学や数学の話は、現在わかっている限りの事実をもとに書かれています。コラムやカラーの写真についても同じです。そこで、そこを翻訳するときに、適切な用語や表現になっているか、まちがいはないか、専門家にチェックしていただく仕事を監修といいますが、この本では、それを東京大学の佐藤勝彦先生と、2-1巻からは、同じ東京大学の平木敬先生にお願いしています。佐藤先生は、優秀な宇宙物理学者で、ホーキング博士とは昔からお知り合いだそうで、博士の本の翻訳も何冊か出されています。平木先生は、計算機科学者で、コンピュータの超高速計算システムの専門家です。2-1巻『宇宙の法則 解けない暗号』は、おふたりの研究が結びついた物語となっています。